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歯科と子育て

むし歯は感染症(うつるもの)だと思っていませんか? お子さんの健康のために知ってほしい新常識


子育て中の皆さん、毎日お疲れ様です。

お子さんの笑顔は、何よりの宝物ですよね。うちにも小さい子がいるのでよく分かります。

この記事を書こうと思ったのは、先日かわいらしい赤ちゃんを連れて受診されたお母さんから、

「私は赤ちゃんにキスしたいんですが、家族にむし歯菌がうつるからダメと言われます。本当なんでしょうか?」と相談を受けたことがきっかけです。

「むし歯って、赤ちゃんにうつるからキスはダメ!」 「家族にむし歯の人がいると、子どももむし歯になるって聞くけど…」

このように思っていませんか?実際にインターネットで検索すると、それがあたかも正しいような発信をよく見かけますし、歯科医院でそのような説明を受けたこともあるかもしれません。

実は、数年前よりむし歯は「非感染性疾患(うつらない)」という考え方が国際的には主流になっています。

今日は、この「むし歯の新しい常識」について、子育て中の皆さんにぜひ知っていただきたいことを、お伝えしたいと思います。お子さんの大切な歯をむし歯から守るために、参考にしていただければ嬉しいです。


むし歯は「非感染性疾患」ってどういう意味?

まず、この言葉の意味からご説明します。(ちょっと理屈っぽいので飛ばしてもかまいません)

「感染症」とは、細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入し、増殖することで引き起こされる病気のことです。インフルエンザや風邪などがこれにあたります。人から人へ、あるいは動物から人へと「うつる」というイメージが強いですよね。

一方、「非感染性疾患(NCD: Non-Communicable Disease)」とは、感染によって起こるのではなく、生活習慣、環境要因、遺伝的要因などが複雑に絡み合って発症する病気のことです。糖尿病、高血圧、心臓病、がんなどが代表的です。

むし歯が「非感染性疾患」であるということは、むし歯菌そのものが「うつる」というよりも、むし歯になりやすい「環境」が整ってしまうことで、むし歯が発症するという考え方です。

もちろん、むし歯の原因菌である「ミュータンス菌」などが口腔内に存在することは事実です。そして、赤ちゃんが生まれて初めて口に菌が入るきっかけの一つが、ご家族からの唾液の共有(同じスプーンを使う、キスをするなど)であることは過去の研究より否定できません。

しかし、むし歯が「うつる」と表現されるほど、ミュータンス菌が単独で病気を引き起こすわけではないということが、最新の研究で明らかになってきているのです。

むし歯は、例えるなら、一本の木が育つようなものです。

種(ミュータンス菌など)があるだけは、木(むし歯)は育ちません。

むし歯菌という病気の「種」が存在することと、その「種」がむし歯という「病気」として育つかどうかは、周りの環境(砂糖の摂取や歯みがき習慣など)によって大きく左右されるのです。

また、子育て中の方なら「むし歯菌の感染を避けるために食器をお子さんと共有しない」ということを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

これに関しては様々な論文の比較研究によって、むし歯予防についての科学的根拠が十分ではないと、2023年に口腔衛生学会より声明が出ておりますので、興味のある方は読んでみてください。(引用元:口腔衛生学会


「うつる」という誤解が引き起こす、本当の弊害

「むし歯はうつるものだから、家族のむし歯を治さないと子どもがむし歯になる」

「赤ちゃんにキスをしたらむし歯がうつるから絶対にしない」

このような考え方は、一見すると子どもの歯を守るために良いことのように思えます。

しかし、実際には以下のような弊害を生む可能性があり、私はそれを心配しています。

過度な制限と心の距離 お子さんとのスキンシップは、親子の絆を深める上で非常に重要です。キスを控えたり、食器を徹底的に分けたりすることは、親御さん自身のストレスにもなりかねません。そして、何よりもお子さんとの大切なコミュニケーションの機会を奪ってしまうことになりかねません。

根本的な原因の見落とし 「むし歯がうつる」ということにばかり意識が向いてしまうと、本当に大切な「むし歯になりやすい環境」の改善がおろそかになってしまうことがあります。例えば、甘いものの与え方や歯磨きの習慣など、日々の生活習慣こそがむし歯予防の要であるにも関わらず、そこへの意識が薄れてしまう可能性があります。

むし歯の原因を「菌」だけに押し付けてしまう むし歯は、細菌だけでなく、食習慣、歯の質、唾液の働き、フッ素の利用、そして毎日の歯磨きといった様々な要因が複雑に絡み合って発生します。もし「菌がうつったからむし歯になった」とだけ考えてしまうと、他の重要な要因に気づかないリスクがあります。

また、ご家族にむし歯がある場合は、そのむし歯の原因となっている生活習慣(例えば、だらだら食べ、不十分な歯磨きなど)が、お子さんにも無意識のうちに引き継がれてしまう可能性があります。

しかし、それは「菌がうつる」というより、「むし歯になりやすい生活習慣が共有されてしまう」と捉える方が適切です。


むし歯は「生活習慣病」、 4つの重要ポイント

では、むし歯を非感染性疾患、つまり「生活習慣病」として捉えた場合、子どもの歯を守るために私たちは何をすれば良いのでしょうか?

むし歯予防の鍵は、以下の4つのポイントに集約されます。

1. 糖質のコントロール:何より重要

むし歯菌は、糖分をエサにして酸を作り出します。この酸が歯を溶かすことでむし歯になります。だからこそ、糖質のコントロールはむし歯予防の「要」です。

  • 与え方と頻度を見直す: 「だらだら食べ」や「だらだら飲み」は、お口の中が酸性になる時間を長くするため、むし歯のリスクを格段に上げます。おやつやジュースは時間を決めて与え、与えた後は歯磨きやうがいを促しましょう。 特に、寝る前の飲食は要注意です。寝ている間は唾液の分泌量が減るため、酸が洗い流されにくくなり、むし歯のリスクが跳ね上がります。寝る前は、水やお茶以外のものは与えないようにしましょう。
  • 糖分の含まれる食品に注意: お菓子やジュースだけでなく、一見すると健康的なイメージのある乳酸菌飲料やスポーツドリンクにも、多くの糖分が含まれていることがあります。原材料表示を確認する習慣をつけましょう。
  • おやつの選び方: 甘いおやつはできるだけ控え、おにぎり、チーズ、果物などを補食として補うのが理想的です。

2. 徹底した歯垢(プラーク)コントロール

むし歯菌は、歯の表面にネバネバとした「歯垢(プラーク)」として存在します。この歯垢をしっかり取り除くことが、むし歯予防の基本中の基本です。

  • 正しい歯磨き習慣を身につける: お子さんの年齢に合わせた歯ブラシを選び、磨き残しのないように丁寧に磨きましょう。お子さんが自分で磨けるようになっても、小学校の間くらいまでは親御さんの「仕上げ磨き」が必要と考えられています。特に、奥歯の溝や歯と歯の間はむし歯になりやすいので、意識して磨いてあげてください。
  • デンタルフロスや歯間ブラシの活用: 歯ブラシだけでは取り除けない歯と歯の間の汚れは、デンタルフロスが有効です。乳歯の間も、歯と歯の間が詰まっている場合はフロスの使用をおすすめします。
  • 歯磨きを「楽しい時間」に: 歯磨きを義務感だけでなく、歌を歌ったり、お気に入りのキャラクターの歯ブラシを使ったりして、お子さんが楽しく取り組めるように工夫できるといいですね。(仕上げ磨きのコツは過去の投稿も参考にしてみてください)

3. フッ素を上手に利用する

フッ素は、歯の質を強くし、酸に溶けにくい歯にする効果があります。また、初期むし歯の再石灰化を促進する働きもあります。近年のむし歯予防に関する研究では、「フッ素配合歯磨き粉を使わない歯みがきには、むし歯予防の効果はあまり期待できない」とされています。

  • フッ素配合歯磨き粉の使用: お子さんの年齢に合わせた濃度のフッ素が配合された歯磨き粉を選び、毎日の歯磨きに使用しましょう。年齢に応じた適切な量の歯磨き粉を使用し、うがいは少量で済ませるのがポイントです。
  • 歯科医院でのフッ素塗布: 定期的に歯科医院で高濃度のフッ素を塗布してもらうことで、より高いむし歯予防効果が期待できます。特に、歯が生え始めたばかりの時期や、永久歯が生え替わる時期は積極的に利用しましょう。

4. 定期的な歯科検診:プロの目とケアが不可欠

どんなにご家庭で頑張っていても、見落としや自己流では限界があります。定期的な歯科検診は、むし歯予防の最後の砦であり、最も確実な方法です。

  • 早期発見・早期治療: むし歯は、初期の段階ではほとんど症状がありません。歯科医院で定期的にチェックしてもらうことで、小さいうちにむし歯を発見し、削らずに済むような治療や、進行を食い止めるための処置が可能です。
  • プロによるクリーニング: 歯ブラシでは取り除けない歯垢や歯石を、歯科衛生士が専門的な器具を使ってきれいに除去してくれます。
  • 予防処置と指導: フッ素塗布やシーラント(奥歯の溝を埋める処置)など、プロの予防処置を受けることができます。また、お子さんの歯の状態や成長段階に合わせた歯磨き指導や食生活のアドバイスももらえます。
  • 疑問や不安の解消: 子育て中に生じる歯に関する疑問や不安を、気軽に相談できる場所があるのは心強いものです。

「まだ歯が生えたばかりだから大丈夫」 「痛がっていないから大丈夫」

と思わずに、ぜひお子さんの歯が萌出し始めたら、かかりつけの歯科医院を見つけて、定期的に通う習慣をつけましょう。我々歯科医師も本音を言えば、むし歯が大きくなり痛くなってからお子さんのむし歯治療をすることは、本当は避けてあげたいです。


まとめ:むし歯予防は「我々おとなが正しい知識をもっているか」がほぼすべて

ここまで、「むし歯は感染症(うつるもの)」という誤解を解き、むし歯が「非感染性疾患」であるという新しい常識と、その上でお子さんの歯を守るための具体的な方法についてお伝えしてきました。

むし歯は、決して「菌がうつったから仕方ない」と諦める病気ではありません。また、がんのように運悪くなってしまう病気でもありません。むしろ、毎日の生活習慣の積み重ねによって、ほぼ確実に予防できる病気なのです。

「うつるもの」という過度な心配から解放され、ぜひお子さんとのスキンシップを大切にしてください。そして、ご家族みんなで「むし歯になりにくい口腔環境」と「むし歯になりにくい生活習慣」を育んでいくことが、何よりも重要です。

  • 甘いものをコントロールする
  • 丁寧に歯磨きをする
  • フッ素を賢く活用する
  • 定期的に歯科医院でプロのケアを受ける

これらの習慣を、親御さんがお手本となって実践し、お子さんと一緒に楽しみながら取り組んでみてください。

お子さんの大切な歯をむし歯から守ることは、将来の健やかな成長にとってお金にかえられないほど大切です。

今日から新しい知識を活かして、お子さんの笑顔を支えてもらえれば嬉しいです。

ささき歯科医院(奥州市水沢) 院長 佐々木俊

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